「職人の手、職人の感覚」溶接ロボットは完璧ではない。人の感覚をプラスしてこそ形になる。

僕の仕事は溶接業で、簡単に言うと金属の部品同士を「溶接」と呼ばれる金属同士を溶かして接合するお仕事をしています。

 

溶接も手で直接やるもの、足でスイッチを入れるもの、ロボットが行うものなど多種多様です。今日はその中でもロボット溶接について。

 

ロボット溶接というのはテーブルの上に設置された治具(物を作るためのもの)に部品をセットして、ロボットのスイッチを入れることでロボットのアームが治具のところにやってきて溶接をしてくれます。

 

基本的にはその治具に決められた通りに部品をセットしてしまえば、誰がスイッチを押しても同じような製品が出来上がります。昔であれば職人さんが手で取り付けていたものを、熟練度がなくとも部品をセットしてスイッチさえ押せれば職人並みの製品が出来上がるわけです。

 

 

出来たものは職人並み。しかしセットするにも職人の感覚が必須

「部品をセットしてスイッチを押すだけ」ですが、その状態にまで持っていくには職人の感覚が必要です。まずテーブルへの治具の取り付け。ほんの小さなゴミ一つでも治具の下に入り込めばズレや傾きの原因になります。

 

置いたら終了!ってわけではありません。置き方、置く位置、置く角度・・・それらも「その次の作業」を行うための大切な準備です。

 

 

次はロボットのプログラム。

ロボットには「何番に何を作るか?」というプログラム番号が割り振られています。それらを呼び出せば、基本的には毎回同じ動きをするようになります。

 

 

治具をセットして番号を選べばOKか?いやいや、そんな簡単ではありません。

治具のセットであっても、毎回微妙に位置は変わります。同じ人がやったって数mm、0.何mmとかズレます。

 

 

その分のズレをロボット側で補正しなきゃいけません。その作業を「ティーチング」と言いますが、ちゃんと先生が教えてあげないといけないんですね。

 

 

「ここは0.3mm右ですよ。ここは0.5mm上ですよ」って。

 

 

これ、素人じゃできませんよね。「ほんの0.3mmくらい・・・何も変わらないでしょ」って思いますよね。そこが職人さんの感覚の重要な部分です。小さな違いのように見えるものでも、出来上がる製品の質としては雲泥の差になります。

 

 

 

職人感覚が少しずつ身についてきたけど、まだまだあまちゃん。

こういったロボットの微妙な設定も少しずつですが覚えてきましたが、今日はロボットの設定よりも治具への部品取り付けで失敗しまくりでした。

 

 

右と左に同じ治具がセットしてありますが、右側でものを作る時だけ部品が曲がってしまいます。

 

 

結論から言えば「部品の下にスパッタと呼ばれる小さい金属の粒が入り込み部品が傾く」のが原因なのですが、いくら気をつけても何個かに一個は不良ができてしまいます。

 

 

手で拭ってもダメ、エアーで吹き飛ばしてもダメ、気がつけば不良発生です・・・。

 

 

でも毎回右側だけで発生するので、「これはこの治具が古いし仕方ないものだ」と半ば諦めていました。何個かに一個くらい仕方ないなと。

 

 

それで先輩に話してみたところ、部品を固定する時に挟み込む道具(クランプ)を下ろした時に部品が動くかどうか指先の感覚で確かめるように言われました。

 

 

例えばテーブルの上に定規などを置いて上から指先で押すとします。定規とテーブルの間に何もなければ全く動きません。でももし砂つぶが入り込んでいたらどうでしょう。ほんのちょっとですが傾きます。

 

 

小さい部品であっても、部品の下に粒状のものが入り込めばガタつきは出る。それを指先で感じなさいと。考えるな、感じるんだと言うわけです。(そうは言ってなかったけど)

 

 

5cmほどの長さの金属の筒を指で軽く押さえつつクランプで固定する。部品の下に何もなければそのまま固定できますが、0.2mmほどの粒でも入り込んでいるとほんのわずかですがクランプをした時にカタっと動くことを感じられます。

 

 

作業中は軍手を二重でつけているので集中しないと気がつかないほどです。けれども先輩たちはそういった部分にまで集中して作業をしているのだなと改めて驚かされました。

 

 

職人の手には目に見えない部分を感じ取り、職人の感覚は数値では表せないようなものを感じ取る能力があるのだと教えられました。